日本刃物総本店 | 玉鋼・庖丁・ナイフ・刀類・高級刃物専門
Japanese Cutlery Pro Store | Tamahagane, Kitchen knife, Sword, etc

玉鋼 牛刀(切付型) 尺寸(300mm) 無銘 藤印 試作品①(自家製鋼)

ASK 試作品

在庫1個

商品コード: 3107
カテゴリー: , ,
鋼種:玉鋼
ブランド:
刀匠・鍛冶師:日本作家

説明.

藤(とう)の玉鋼(和鋼)牛刀
玉鋼 牛刀 (切付型)尺寸(300mm) 無銘 藤印 試作品①(自家製鋼)
◎サイズ
全長:約 455 mm
刃長:約 297 mm
刃厚:約 2.3 mm
本体重量:約 190 g
◎仕様
職人:
刀身:玉鋼(和鋼)
刃紋:乱れ
地肌:正目ががり板目
研ぎ:刀剣研ぎ師による刀剣仕上げ
鋼種:玉鋼(和鋼)
柄:朴に赤漆(カシュ―)塗り
鞘:朴(茶染料及び樹脂塗布)
口金:水牛角
姿:平造り
◎その他
その他:国産品
作者

日本作家


未だ、解説がありません

解 説

玉鋼の包丁に興味を持ち続け、最近になってそれが欲しくなった。オール玉鋼、無垢(むく)の玉鋼(和鋼)の包丁である。昔から、スウェーデン鋼や日立安来鋼の白紙、青紙を三枚打に打ち、または、片刃に鍛接した玉鋼の包丁をたまに目にしてきたが、オール玉鋼(和鋼)の包丁は目にしたことがない。

知人の刀匠を訪ね所望してみるが、「包丁はねぇ~」とやんわり断られてしまった。
では、道具鍛冶はどうかと訪ねてみても、玉鋼を打ったことは無いと云う。打っても難しいからごめんこうむると云う。
では、刀匠にして道具鍛冶になった二足のわらじを履いている刀匠は、というと、短刀ほどの厚さがあれば良いが、薄物は難しいと云う。焼き入れ時に割れてしまうことが多いからだ。ある刀匠は、「玉鋼は切れないよ~難しいからねぇ」と逃げてしまう。

世界一の切れ味の良い玉鋼が、なぜ切れないと云うのだろうか?
しばらく玉鋼に関する資料を再読し、読み漁り、再び、数人の刀匠を訪ねた。
解ったことは、玉鋼は他の鋼に比べ1%前後の炭素と微量のケイ素、マンガン、リンを含有するだけのピュアーな鋼なのだ。昔の女心のように、非常にデリケート。焼き入れ性を良くしてくれる元素クローム、モリブレンなどが入っていないのだ。
そんなわけで、焼き入れ温度の適正領域が驚くほど狭いのだ。対象物の刀身の薄さによって微妙に影響し、まさに、運を味方にとため息をつく。さらに、厳密にいうと、たたら製鉄の折に用意した木炭の種類、砂鉄の産地(川、山、海)、温度管理を含めた適切なたたら作業。正確な折り返し鍛錬の後の鍛造が全て上手く行くという条件付きだが・・・。しかし、それでも成功する確率が少ないのが玉鋼(和鋼)。まさに、神の領域と思う。

アフリカでも砂鉄から鉄を作る“小たたら操業”の伝承が行われており、たたら操業の前に鶏の首を刎ね、たたら場に生き血を撒く、生贄の儀式が行われていた。何回操業しても成功する確率は低く、神に祈るしかない。それも解る気がした。
話を戻すと、包丁は刀身が薄いので、さらに焼き入れが難しくなる。少しでも硬度を上げようと赤め過ぎると“ピシッ”と音がして割れてしまう。一瞬にして積み上げた時間と労力、材料が泡と消えてしまうのだ。かといって、温度を低めにすると硬度が甘い。暗幕を張って暗くしても、その時の体調により“赤みの色”が微妙に違って見えることもある。
そんなわけで、5年ほど前から情報が入っていた四万十のくろがね工房で講習を受けることにした。
講習は、古代製鉄(たたら製鉄)で玉鋼の生産と、鍛錬及び鍛造。講師は林信哉さん。
たたら製鉄については、島根県の“匠鉄たたら”など数回見学しているので、およその見当はついていた。
折り返し鍛錬、鍛造については、以前、知り合いの鍛冶屋で数回、遊ばせてもらっていた。

くろがね工房、“たたらの操業”では9キロの鉧(けら)が取れた。グラインダーで火花を散らせてみたが、まずまずの良質。
そこで、筆者は「これで、玉鋼の牛刀を作ってみたいのだがね~」と持ちかけてみた。
すると、「え~っ、玉鋼の包丁なんか作ったことありませんよ~、青紙なら包丁を作っていますけど」と申し訳なさそうにする。私の悲しそうな顔を見て「あっ、なんとかやってみますか、したことありませんけど」と笑顔で聞き入れてくれた。優しい人である。

私は、嬉しさを噛み殺し、いそいそと工房に入り、安堵の息を大きく吐き出した。実は、玉鋼の牛刀の図面まで用意をして来ていたのだ。
まず、向こう槌を担当し、鉧(けら)を大槌ハンマーで割った。ノロや銑(ずく)、木炭を取り除き、炉で赤め、板状にしていく。このインゴットを赤めては延ばし、タガネを入れ折り返し鍛錬5回。それを対象とする牛刀の刀身の長さを考慮し、図面を見ながら形作っていく。

さらに、砥石、ヤスリ、グラインダーを使用し、焼き入れ前の状態まで肉取り形成する。
次は土置きだ。土置きは、焼き入れの際、水に突っ込み急冷させた時、冷却温度差による硬度差を得るための緩衝剤というのが鍛冶の常識だ。しかし、裸焼きで有名な刀匠・杉田善昭によれば、鋼内の自由電子の組織化という物理現象により、刃焼土に反応し促進剤になると云う、真逆の不思議な話だ。
土置き用のヘラは、自ら火づくり、焼き入れして作った。林さんが、師匠の残した資料を基に焼刃土を作った。刀身に塗布、想像した波紋を描き、削り取る。土置きは、以前刀匠の鍛錬所を訪ない見聞きしていた。しかし、初めての作業なので、様々な方法で土を置いてみた。講師の林さんが、興味深々な目で見ていた。

焼き入れは10本。そのうち割れがきたのは2本。神からの贈り物として、8本生き残った。しかし、そのうち1本は練り傷が多く、わが厨房で使用している。それぞれ、砥石に当て、硬度を推定。曲げ強度も確認した。甘いものもあれば、まずまずのものもあり、偶然の上作もあった。このうち、牛刀切付型の8寸は金属組織顕微鏡で炭素の球状化状態を観察したが、日立青紙鋼のような炭素の球状化は、はっきりと見えなかった。それでも、硬度、曲げ強度は出ているのが、玉鋼の不思議なところだ。この牛刀切付型8寸の研ぎ仕上げは、特別に刀剣専門の研ぎ師に仕上げてもらい、残りは刃物研ぎ師による準刀剣研ぎを施した。上作のスウェーデン鋼や日立の青紙、白紙にくらべ、切れ味や刃持ちは劣ると思うが、玉鋼(和鋼)は、甘切れと云うか何か不思議な切れ味と温もりを感じる…。そして、そこには壮大なロマンが存在しているのだ。
もちろん、筆者は鍛造のプロではない。鍛錬、鍛造、焼き入れの難しい急所は、全て林講師が手を差し伸べてくれた。感謝。